「ようこそ」という言葉をこれほど頻繁に口にする国は他にありません。そしてエジプト人がその言葉を口にするたび、それは本心からの歓迎です。悠久の歴史を持つ古代エジプト文明が人々を魅了し続ける一方で、現代のエジプト人も同じように驚くべき存在です。
アクスヌール・モスク
アクスヌール・モスク:カイロに咲く、オスマンの青をまとったマムルークの至宝
カイロの喧騒の中心に静かに佇む「アクスヌール・モスク」は、地元の人々に親しみを込めて「カイロのブルーモスク」と呼ばれています。同名を持つイスタンブールの壮麗なブルーモスクと比べると規模こそ劣るものの、アクスヌール・モスクには独自の魅力と歴史的深みが息づいています。
このモスクが建立されたのは1347年。マムルーク様式を主体とした建築が、その時代の芸術性と精神性を色濃く映し出しています。しかし、このモスクを特別な存在にしているのは、オスマン時代に加えられた青いタイルの壁です。建立から約300年後に施されたこの装飾は、マムルークの重厚さの中にオスマンの優美な感性を溶け込ませた、美の融合とも言える芸術的なアクセントとなっています。
アクスヌール・モスクのもう一つの見どころは、そのミナレット(尖塔)です。塔を登ると、サラディンによって築かれた壮大な城塞や、旧市街の城壁跡を見渡す息をのむようなパノラマが広がります。眼下に広がるカイロの風景は、単なる地理的眺望を超え、街が重ねてきた歴史の層を体感させてくれる特別な体験となるでしょう。
このモスクは、ただの礼拝所ではありません。それはカイロの多層的な歴史への入り口であり、マムルークの礎からオスマンの彩りに至るまで、あらゆる要素がこの都市の豊かな過去を静かに物語っています。アクスヌール・モスクは、石とタイルに刻まれた時代の記憶が交差する場所──まさに、カイロという都市を象徴する文化的・歴史的交差点なのです。
このモスクを訪れることは、イスラーム建築の生きた博物館を歩くようなもの。喧騒の中にありながらも心静まる空間であり、その壁に織り込まれた物語に耳を傾けるひとときを与えてくれます。歴史的建造物がひしめくカイロにおいて、アクスヌール・モスクはひときわ輝く青い宝石。その美しさと文化の奥深さは、時を超えて今もなお、訪れる者の心をとらえて離しません。
作成日:2020年3月18日
更新日:2025年3月22日
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