アブシールにあるプタハシェプセスのマスタバ

秘密のベールを剥ぐ:アブシールにそびえる壮麗なるプタハシェプセスのマスタバ

アブシールにあるプタハシェプセスのマスタバは、古代エジプトにおける建築革新と複雑な社会階層の構造を今に伝える、実に魅力的な証です。ギザの有名なピラミッド群の近く、アブシール高原に位置するこの墓は、紀元前2400年頃、第5王朝時代に活躍した高位官僚プタハシェプセスのものです。彼はファラオ・ニウセルラー・イニの側近であり、王の娘と結婚するという、当時としては極めて特別な立場にあった人物です。

このマスタバは、古代エジプトの工学技術と芸術性の粋を集めた作品と言えるでしょう。「マスタバ」という言葉はアラビア語で「ベンチ」を意味し、地上部分が長方形で、平らな屋根と外側に傾斜した壁を持つ構造の墓を指します。地下には埋葬室があり、地上の構造と一体となって葬祭の役割を果たしていました。プタハシェプセスのマスタバは特にその大きさと内部構造の複雑さで知られており、複数の部屋や礼拝堂、回廊を備えており、それぞれが当時の葬祭儀礼や宗教的信念に基づいた目的を持って設計されています。

なかでも注目すべきなのが、マスタバの壁面を彩る精緻なレリーフ装飾です。これらの彫刻は、プタハシェプセスの生涯に関する貴重な情報源となっており、家族との関わり、王宮での役割、さらには当時の日常生活の様子が生き生きと描かれています。漁や狩猟、農作業など、多岐にわたる活動が描かれており、古代エジプト人の暮らしを垣間見ることができます。

マスタバ内の礼拝堂には「偽の扉」が設けられており、これは古代エジプトの墓において重要な要素でした。生者の世界と死者の霊(カー)が行き来するための象徴的な出入口とされ、供物を捧げる儀式の中心的な場として機能していました。

プタハシェプセスのマスタバは、その革新的な建築手法により、後の時代の墓や神殿建築に多大な影響を与えました。その緻密な設計と卓越した芸術性は、彼の高い社会的地位と、当時の職人たちの優れた技術力を物語っています。

今日、アブシールのプタハシェプセスのマスタバは、古代エジプト社会の複雑さ、宗教観、そして芸術的偉業を探求するための貴重な窓口となっています。この壮麗な遺構は、エジプトが人類の文化遺産に残した不朽の功績を物語り、私たちを時を超えた旅へと誘います。

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