エジプトの悠久なる大地、その中心には肥沃な土壌と精緻に灌漑されたサトウキビ畑がどこまでも広がり、その中に静かに佇む古代都市コム・オンボがあります。エドフの南約65キロメートルに位置するこの絵のような町は、祖先伝来の土地に深く根を張り、素朴な暮らしを守り続ける農民(フェラヒーン)のコミュニティだけでなく、ナセル湖の誕生によって故郷を追われたヌビアの人々も温かく迎え入れてきました。コム・オンボはその穏やかな美しさと歴史的価値によって、アスワンとルクソールという魅惑的な都市を行き交う旅人にとって、気軽に訪れることができる魅力的なオアシスとなっています。
遥か昔、この地は「パ・セベク」(Pa-Sebek)という名で知られ、その名は肥沃な大地を支配したワニの神・ソベクに由来しています。しかし、町の真の輝きが花開いたのは栄華を極めたプトレマイオス朝の時代でした。プトレマイオス6世フィロメトルの治世下で町は大きく姿を変え、「オンボス」(Ombos)の名を掲げると共に、上エジプト第1ノモスの由緒ある首都としてその名を歴史に刻んだのです。